「AIを活用したいが、社内に詳しい人がいない」
この状況で動けなくなっている中小企業は多い。ChatGPTが普及してAI活用の必要性は伝わっているが、「誰がやるのか」が決まらないまま止まっている。
僕は業務効率化に特化したエンジニアとして、AI活用に詳しい人材がいない中小企業のサポートをしてきた。そこで見えてきたのは、「詳しい人がいない」という問題には複数のパターンがあり、打ち手がパターンによって変わるということだ。
この記事では、選択肢ごとの現実を整理する。「AI活用を始めるために今何をすべきか」の判断材料として使ってほしい。
「AIに詳しい人がいない」の中身を分解する
まず問題を整理したい。「AIに詳しい人がいない」という言葉は、2つの異なる問題を混同していることが多い。
問題A:AIツールを使いこなせる社員がいない
ChatGPTやClaudeを業務に当てはめてアウトプットを出せる社員がいない状態。プロンプトの書き方が分からない、どの業務に使えるか分からないというケース。
問題B:AI活用を設計・実装できる人材がいない
ツールの使い方だけでなく、「どの業務をAIに任せるか」を設計し、必要に応じてAPI連携や自動化の仕組みを組める人材がいない状態。
問題Aは研修や試行錯誤で対応できる。多くの生成AIツールは専門知識なく使えるように設計されている。
根が深いのは問題Bだ。業務にAIを実際に組み込んでいくためには設計・実装の視点が必要になる。この人材は育成も採用も簡単ではない。
「自社が今どちらで詰まっているのか」を最初に確認してほしい。打ち手が変わる。
5つの選択肢と、それぞれの現実
選択肢1:社内の誰かをAI担当に指名する
既存社員の中からAIへの関心が高い1人を選び、業務の一部をAI活用推進に充てる方法。
見込める効果
- 追加コストがかからない
- 現場を知っている社員が取り組むため、自社の業務への応用イメージが湧きやすい
- 小さく試して、うまくいったものを広げる判断がしやすい
実際に起きやすい問題
- 本業との兼務になるため、AI関連の優先度が後回しになりやすい
- ツールを使えるようにはなっても、業務全体の設計や実装の知識は身につきにくい
- その社員が退職すると社内のAI活用が止まる
向いているケース
- まず「AIツールを日常業務で使い始める」という段階に進みたい
- 複雑な自動化ではなく、ChatGPT等で日常業務の一部を効率化したい
選択肢2:AIエンジニアをフルタイムで採用する
AI活用を推進・実装できる人材を正社員で雇う方法。
見込める効果
- 継続的に社内のAI活用を深めていける
- 社内の業務・データへのアクセスがあるため、会社の実情に合った仕組みを作れる
実際に起きやすい問題
- そもそも採用が難しい。AI・エンジニア系の人材は慢性的に不足しており、大企業やスタートアップとの競合で中小企業は不利な立場になりやすい
- 採用できた場合も、単調な業務が続くと数年で離職するリスクがある
- 給与水準が上がりやすく、固定コストとして重くなる
向いているケース
- AI担当として採用するというより、DX推進・システム全般のリーダーとして長期的に育てる意図がある
- 採用活動に時間と費用をかけられる余裕がある
AI採用と顧問サービスの費用・リスクの詳細比較はAI担当者を雇うvsAI顧問を依頼|コスト・成果・リスク比較で整理している。
選択肢3:副業・フリーランスとして関わってもらう
AIに強いエンジニアやコンサルタントを業務委託で週数時間から関わってもらう方法。
見込める効果
- フルタイム採用より費用・リスクが低い
- 必要な範囲・期間だけ契約できる柔軟性がある
実際に起きやすい問題
- 関与時間が短いため、社内の業務実態を深く把握しにくい
- 「設計は提案するが、社内への定着は自社メンバーが担う」という切り分けになりやすい
- 担当者が変わると、知識や文脈が引き継がれない
向いているケース
- 特定の技術課題(スクリプト作成・API連携等の単発作業)の解決を依頼したい
- 社内に一定のIT基盤があり、足りない部分だけ補いたい
選択肢4:AI研修を受ける
外部のAI研修サービスで社員にAIの知識・使い方を習得させる方法。
見込める効果
- ツールの基礎的な使い方を習得できる
- 社員が同じ基礎知識を持つことで、社内の共通言語ができる
実際に起きやすい問題
- 「研修を受けた」「知識はついた」が「業務が変わらない」という状態になりやすい
- 研修で学んだ内容を自社の具体的な業務に当てはめて実装する段階で止まることが多い
AI研修が業務実装に繋がりにくい理由は構造的な問題で、知識の習得と業務への組み込みは別のスキルが必要になる。AI研修と顧問サービスの使い分けはAI顧問とAI研修の違い|どちらを選ぶべきか業務別に解説で詳しく整理している。
向いているケース
- 社員がAIに対して抵抗感を持っており、まず「触れさせる」ことが目的
- すでに業務への応用範囲が明確で、使い方の練習が主な目的
選択肢5:AI顧問を契約する
月額で「AIを業務に組み込む設計・実装の支援」を継続的に行うサービスと契約する方法。
見込める効果
- 採用や研修では難しい「業務を実際に変える」ところまで伴走してもらえる
- 社内に詳しい人材がいなくても、外部の知識・経験を借りながら動ける
- フルタイム採用と比べて費用を抑えられる
実際に起きやすい問題
- 顧問によって質のばらつきが大きい。月1回のZoom面談だけという実態の薄いサービスも存在する
- 自社の業務を積極的に共有・協力する社内の姿勢がないと効果が出にくい
AI顧問とはどのようなサービスで何をしてくれるのかの全体像はAI顧問とは?中小企業が知るべきサービスの全体像と費用相場にまとめている。
向いているケース
- AI担当者を採用するより低いコストで、業務にAIを組み込んでいきたい
- 何から始めればいいか分からず、設計段階から一緒に考えてほしい
- 継続的に業務改善を積み重ねていきたい
5つの選択肢の比較
| 選択肢 | コスト感 | 業務実装力 | 継続性 | 向いている規模感 |
|---|---|---|---|---|
| 社内指名 | 低 | 低〜中 | 人依存 | 10人以下 |
| フルタイム採用 | 高(固定) | 高 | 高(定着した場合) | 30人以上 |
| 副業・業務委託 | 中 | 中(範囲限定) | 低 | 規模問わず |
| AI研修 | 低〜中 | 低 | 低 | 規模問わず |
| AI顧問 | 中(月額) | 高 | 高 | 5〜50人 |
どれを選ぶかの判断軸
「ツールを使い始めたい」だけなら:社内指名 or 研修
ChatGPTやClaudeを日常業務で使い始めるだけであれば、社内に関心のある社員が1人いれば動ける。研修費用をかけるより、まず試させる時間を確保する方が実用的なケースも多い。
「特定の技術課題を解決したい」なら:副業・業務委託
API連携やスクリプト作成など具体的な技術課題の解決が目的なら、その領域に強いフリーランスへの単発依頼の方が費用対効果が高い。
「業務を継続的にAIで改善したい」なら:AI顧問
一発の解決ではなく、業務の流れ全体を見直しながらAIを組み込んでいきたい場合は、月次で関わり続けるAI顧問が現実的な選択肢になる。特に「何から手をつければいいかが分からない」という状態では、AI顧問が最初の整理を担える。
内製化か外注かの判断についてはAI活用を内製する vs AI顧問に外注する|中小企業向け判断基準でも整理しているので参考にしてほしい。
「採用で解決したい」なら:採用の現実を確認してから
フルタイムのAI人材採用を検討しているなら、採用難易度・費用・定着の現実を先に確認してほしい。採用に時間と費用をかけても候補者が見つからないというケースは珍しくない。
まとめ
「社内にAIに詳しい人がいない」という状況は、詰まっている問題の種類によって打ち手が変わる。
- ツールを使い始めるだけなら:社内指名か研修で動ける
- 業務に実装したいなら:AI顧問か副業委託が現実的
- 長期的に組織のAI力を育てたいなら:フルタイム採用か育成
最もやりがちなミスは「誰かを採用すれば解決する」と考えて採用活動を始め、半年後に候補者が見つからず止まることだ。選択肢を整理した上で、今の自社の状況に合った入り口を選んでほしい。
「ChatGPTを契約したが誰も業務で使えない」という状態になっている場合は、ツールの問題ではなく設計の問題であることが多い。ChatGPTを契約しても業務で使えない3つの理由も合わせて読んでほしい。