地震、台風、感染症の流行、突然のインフラ障害。これらが起きたとき、あなたの会社は翌日から業務を続けられるだろうか。
帝国データバンクの調査(2025年)によると、BCP(事業継続計画)を策定済みの中小企業は約17%にとどまる。大企業の策定率(約39%)と比べて20ポイント以上の差がある。
策定していない理由として最も多いのは「策定に必要なスキル・ノウハウがない」「策定する人材を確保できない」「策定する時間を確保できない」だ。
要するに、「やり方が分からない、人がいない、時間がない」の3つで止まっている。
この記事では、その3つの壁を全部取り除く。中小企業が1日でBCPの骨格を作るための具体的な手順を解説する。完璧なBCPは不要だ。「何かあったときに、誰が何をするか」が書いてある状態にするだけでいい。
BCPとは何か、最低限の理解
BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、災害や事故が発生した際に、事業への影響を最小限に抑えて業務を継続するための計画書だ。
難しく考える必要はない。「こういう事態が起きたら、こういう順番で動く」というルールを文書にしたものだ。
BCPがあると何が変わるか
BCPがない会社でよく起きるのは、緊急事態が起きた後に「誰に連絡すればいい?」「何を優先すればいい?」が決まっていないまま、経営者だけが動き回るという状況だ。
BCPがあれば、この混乱を減らせる。具体的には以下の3点が変わる。
1. 誰でも動けるようになる
緊急時でも社員が自分の役割を知っている。経営者不在でも一定の対応ができる。
2. 取引先や金融機関への信頼につながる
「事業継続計画を持っている会社」は、取引先から見ても信頼度が高い。融資審査や補助金申請の場面で有利に働くことがある。
3. 自社の業務の把握につながる
BCP作成の過程で「うちの業務の核は何か」「誰が何を担っているか」を整理することになる。属人化の把握にもなる。
中小企業は「完璧なBCP」を目指さなくていい
大企業向けのBCP策定ガイドラインは、分厚い。リスク分析、BCPの発動体制、訓練計画……と、100ページ超の文書になることもある。
中小企業に同じものを作る必要はない。
中小企業庁が提供している「中小企業BCP策定運用指針」では、入門コースから始めることを推奨している。入門コースなら1〜2時間で完成し、A4で数枚程度に収まる。
さらに簡易な「事業継続力強化計画」という選択肢もある。これは中小企業強靱化法に基づく国の認定制度で、A4 4枚程度の様式に記入するだけで完成する。記入内容はシンプルで、認定を受けると補助金・融資・税制上の優遇が受けられる。
「完璧より、あるかないか」が大事だ。まず骨格だけ作ることを優先してほしい。
1日で完成させるBCP作成の5ステップ
以下の手順で進めれば、経営者1人でも1日でBCPの骨格を作れる。
ステップ1:中核業務を1〜2つ決める(目安:30分)
「これが止まったら経営ができない」という業務を1〜2つに絞る。
例として以下のようなものが挙げられる。
- 受発注の対応(注文を受けて、商品を出荷・手配する)
- 請求書の発行と入金確認
- 顧客への納品・サービス提供
- 工事の現場管理
絞り込む際の基準は「この業務が3日止まったら、顧客に実害が出るか」だ。実害が出るなら中核業務に該当する。
ステップ2:想定するリスクを1つに絞る(目安:15分)
すべてのリスクを想定しようとすると先に進めなくなる。まず1つに絞る。
日本の中小企業で最も影響が大きいリスクは地震だ。日本は地震大国であり、近年の自然災害による企業の被害においても地震が占める割合は大きい。
「震度6以上の地震が発生した場合」を起点に考えるのが最もリアルな出発点だ。BCP完成後に台風・感染症などに対象を広げればいい。
ステップ3:緊急時の連絡先と役割分担を整理する(目安:1時間)
以下の情報を書き出す。
連絡先リスト
- 全社員の緊急連絡先(自宅・携帯)
- 主要取引先の連絡先
- 顧問税理士・社労士
- ITサポートの連絡先
- 設備・建物の管理会社
役割分担表
| 役割 | 担当者 | 代替担当者 |
|---|---|---|
| BCPの発動判断 | ○○(代表) | △△(副代表) |
| 社員への連絡 | ○○ | △△ |
| 取引先への連絡 | ○○ | △△ |
| 重要データの確保 | ○○ | △△ |
「担当者が連絡取れない場合は誰が動くか」まで決めておくのが重要だ。
ステップ4:業務継続のための代替手段を考える(目安:1時間)
中核業務が止まった場合、どんな代替手段があるかを書き出す。
場所の代替
- テレワーク可能か
- 代替オフィス・コワーキングスペースの候補はあるか
データの代替
- 重要データのバックアップはどこにあるか(クラウドか、外付けHDDか)
- バックアップから復旧するのに何時間かかるか
人員の代替
- 特定の担当者しかできない業務は何か
- その業務を外注できる先はあるか
ここで自社の業務の属人化が浮き彫りになることが多い。「○○さんしかできない」という業務が見つかったら、それがリスクだ。
ステップ5:発動基準と目標復旧時間を決める(目安:30分)
発動基準の例
- 震度5強以上の地震が発生した場合
- 社員の30%以上が出勤できない状態が3日以上続く場合
- 本社オフィスへの立ち入りが困難になった場合
曖昧な基準では誰も動けない。具体的な条件を書くことが重要だ。
目標復旧時間(RTO)の設定
「中核業務をいつまでに再開させるか」の目標を決める。
| 中核業務 | 目標復旧時間 |
|---|---|
| 受発注の対応 | 72時間以内 |
| 請求書の発行 | 1週間以内 |
最初は「本当に達成できるか分からない」状態でいい。目標を持つことで、何が足りないかが見える。
無料で使える公式テンプレート2選
ゼロから作る必要はない。以下の公式テンプレートを活用すれば、設問に答えるだけでBCPの骨格が完成する。
1. 中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」入門コース
中小企業庁が公式に提供する無料のBCP作成ガイド。
入門コースは中小企業が初めてBCPを作る際に最適な設計になっており、用語の解説も付いている。「ひな形(記入シート)」をダウンロードして埋めていくだけで完成する。
2. 大阪府「超簡易版BCP『これだけは!』シート」
A3用紙1枚に収まる、日本で最もシンプルなBCPひな形の一つ。記入時間の目安は40〜60分と公式に記載されている。
「まず1枚で全体像を把握したい」という場合はここから始めるのがいい。
事業継続力強化計画(ケイゾクリョク)という選択肢
「BCPより簡単にしたい、かつ公的な認定を得たい」という場合は、「事業継続力強化計画」の認定を検討する価値がある。
中小企業強靱化法に基づく経済産業大臣の認定制度で、以下のメリットがある。
- 低利融資・信用保証等の金融支援
- グループ補助金など各種補助金の優遇
- 設備投資の税制優遇(法人税の控除)
- 認定書・認定ロゴの使用(取引先への信頼)
申請はA4 4枚程度の様式に記入するだけで、商工会議所・商工会・中小企業診断士等の支援機関に相談しながら進められる。
BCP完成後にやること
作って終わりにすると、実際に災害が起きたとき「どこに保存したか分からない」「内容が古い」という事態になる。
最低限、以下の3つをやっておいてほしい。
1. 全社員に内容を共有する
BCPは経営者だけが知っていても機能しない。年に1回、全社員向けに内容を説明する機会を作る。
2. 年1回内容を見直す
担当者の変更、取引先の変更、新しい業務の追加があった際は内容が古くなる。4月などのタイミングで1年に1回は更新する。
3. 印刷して保管する
緊急時にはパソコンが使えないことがある。BCP本体とその連絡先リストだけは、紙で手に届く場所(引き出し、防災袋など)に保管しておく。
まとめ
中小企業のBCPは完璧に作る必要はない。「中核業務が何か」「緊急時に誰が何をするか」「代替手段は何か」が書いてあれば、最小限の機能として機能する。
今日紹介した5ステップで進めれば、経営者1人でも1日でBCPの骨格ができる。
まず動くことが大事だ。100点のBCPを1年後に作るより、60点のBCPを今日完成させる方が、会社を守る確率がずっと高い。
BCP作成の過程で「属人化がひどい」「業務の担当が偏りすぎている」という問題が見つかることは多い。そうした課題の相談先を探している場合は、以下の記事が参考になる。