「ChatGPTを業務で使ってみたいけど、何をどう聞けばいいか分からない」と相談されることが多い。世の中には「業務で使えるプロンプト30選」のような記事が溢れているが、コピペしてもなぜか自社の業務に当てはまらず、結局使われなくなる。
この記事では、業務効率化に特化したエンジニアとしてAIを毎日使っている立場から、中小企業が現場でそのまま使えるプロンプトの「型」を10個出す。重要なのは「30個並べる」ことではなく、「自社の情報を埋め込んで継続的に使える型」を持つことだ。
結論:プロンプトは「型 + 自社情報」で決まる
業務でAIが使えない原因の9割は、プロンプトの問題ではなく「自社情報の入れ方」の問題だ。
たとえば「営業メールを書いて」と頼んでも、当たり障りのない文章しか出てこない。でも「弊社のサービスは○○、過去の成約率が高かった顧客の特徴は△△、今回の宛先は××業界の××担当」と背景を埋めれば、出力は一気に実用レベルになる。
つまり、プロンプトテンプレートは「枠」でしかない。中身に何を入れるかが効率化の本質だ。だから本記事のテンプレートは「埋める箇所」を意図的に空欄にしてある。空欄を埋める作業を1度だけきっちりやれば、以降は使い回せる。
中小企業の業務プロンプトの基本構造
僕が日々使っている型は、5つの要素で構成される。これさえ守れば、新しい業務でもプロンプトをすぐ作れる。
- 役割: 「あなたは〇〇の専門家です」とAIに役割を渡す
- 背景情報: 自社の業種・サービス・対象顧客などを書く
- タスク: 何をしてほしいか具体的に書く
- 制約: 文字数、トーン、形式(箇条書き/表)の指定
- 出力例: 「こういう形で出して」とサンプルを1つ見せる(重要)
5番目の「出力例」を入れると精度が一気に上がる。AIに「期待する完成形」を見せることで、最初から狙った形で返ってくる。
業務プロンプト10選(部署別)
ここからは部署別の実用テンプレートを出す。〔〕は埋める箇所だ。最初の1回だけ時間をかけて埋めて、以降はSlackやNotionに貼り付けて使い回してほしい。
経理:1. 月次締めの取引先別未入金リスト要約
あなたは中小企業の経理を10年経験した実務家です。
以下の入金データから、当月の入金が未確認の取引先を抽出し、
請求書発行日が古い順に並べ替えてください。
【入金データ】
〔ここにスプレッドシートやCSVを貼る〕
【出力形式】
| 取引先 | 請求書発行日 | 金額 | 経過日数 | 督促ステータス |
の表形式で出力。経過日数が30日以上の行は太字にしてください。
スプレッドシートを開いて目視で確認していた作業が、貼り付け1回で終わる。月次の負担が大きく減る。
経理:2. 仕訳の仮置きチェック
あなたは中小企業の経理担当者です。
以下の取引内容を読み、仕訳の勘定科目を提案してください。
判断に迷う点があれば「税理士に確認」と書いてください。
【会社情報】
業種: 〔自社の業種〕
売上規模: 〔売上規模の概算〕
税区分: 〔課税事業者/免税事業者〕
【取引内容】
〔請求書や領収書のテキストを貼る〕
【出力形式】
借方科目 / 借方金額 / 貸方科目 / 貸方金額 / 摘要 / 確認要否
仮置きの判断はAIで時短し、最終確認だけ税理士に投げる流れが組める。
人事・労務:3. 求人票のドラフト作成
あなたは中小企業の採用支援の専門家です。
以下の情報から、求人票のドラフトを作成してください。
【会社情報】
社名: 〔社名〕
事業内容: 〔1〜2行で〕
従業員数: 〔人数〕
社風キーワード: 〔3つ程度〕
【募集ポジション】
職種: 〔職種〕
業務内容: 〔3〜5項目〕
求める人物像: 〔3項目〕
給与: 〔レンジ〕
勤務地: 〔場所〕
【出力形式】
- 求職者目線で「働く魅力」が伝わる文章に
- 形式的な表現を避け、当社の言葉で書く
- 700〜900字程度
求人媒体に貼り付けるドラフトが10分でできる。あとは社長が手を入れて完成。
人事・労務:4. 入社手続きチェックリスト生成
あなたは中小企業の労務担当者です。
新入社員1名分の入社手続きチェックリストを作成してください。
【会社情報】
業種: 〔業種〕
従業員数: 〔人数〕
入社日: 〔YYYY-MM-DD〕
雇用形態: 〔正社員/契約社員/パート〕
【出力形式】
- 入社前にやること
- 入社当日にやること
- 入社後1週間以内にやること
の3区分で、チェックボックス付きの一覧に。
書類名・提出先・期限を明記。
属人化していた手続きが、誰でも回せる手順書になる。
営業:5. 商談前の事前準備メモ
あなたは中小企業の営業担当者です。
以下の商談相手について、事前準備メモを作ってください。
【商談相手】
会社名: 〔会社名〕
URL: 〔ホームページ〕
担当者: 〔役職と名前〕
【自社情報】
サービス: 〔サービス概要〕
過去の類似業界での成功事例: 〔1〜2件〕
【出力形式】
- 相手企業の事業概要(3行)
- 推測される課題(3つ)
- 当社サービスとの接続点(3つ)
- 商談で聞くべき質問(5つ)
商談の30分前にこれを叩き込むだけで、当日の解像度が変わる。
営業:6. お礼メール+次回アクションの提案
あなたは中小企業の営業担当者です。
以下の商談メモから、お礼メールと次回提案の文面を作ってください。
【商談メモ】
日時: 〔日時〕
相手: 〔会社名・担当者〕
内容: 〔メモを貼る〕
合意した次回アクション: 〔3つまで〕
【出力形式】
- 件名
- 本文(300字以内、丁寧すぎないトーン)
- 次回アクションの確認を本文に含める
商談の直後にAIに任せれば、お礼メールを当日中に送れる確率が上がる。
営業:7. 提案書の構成案
あなたは中小企業の営業企画担当です。
以下の顧客課題に対する提案書の構成案を作ってください。
【顧客情報】
業種: 〔業種〕
規模: 〔従業員数〕
課題: 〔1〜3行で〕
【自社サービス】
〔サービスの強み3つ〕
【出力形式】
1. 表紙(タイトル案3つ)
2. 課題整理(1スライド)
3. 解決策(2〜3スライド)
4. 導入後の効果(1スライド)
5. 費用と進め方(1スライド)
各スライドに入れるメッセージを箇条書きで。
提案書の白紙状態から脱出できる。中身の差別化は人間の仕事だが、骨格はAIで十分作れる。
総務:8. 社内お知らせの文面作成
あなたは中小企業の総務担当です。
以下の内容を、社内向けのお知らせ文面にしてください。
【伝えたいこと】
〔3〜5行で要点を書く〕
【会社の文化】
コミュニケーションのトーン: 〔フランク/丁寧/中庸〕
配信ツール: 〔Slack/メール/掲示〕
【出力形式】
- タイトル
- 本文(200字程度)
- 必要なアクションを最後に明記
お知らせ文を書くたびに悩む時間がなくなる。
マネジメント:9. 1週間の業務振り返り資料
あなたは中小企業の経営者の右腕です。
以下の業務ログから、1週間の振り返りメモを作ってください。
【業務ログ】
〔Slackやカレンダー、日報のメモを貼る〕
【出力形式】
1. 今週できたこと(事実ベースで5つ)
2. できなかったこと・遅れていること(3つ)
3. 来週の優先タスク(3つ)
4. 経営者が判断すべき論点(あれば)
経営者が日曜の夜に1人で抱え込む振り返り作業が、月曜朝に5分で読める形になる。
全社共通:10. 議事録要約と次回アクション抽出
あなたは優秀なビジネスアシスタントです。
以下の会議の文字起こしから、議事録を作ってください。
【会議情報】
日時: 〔日時〕
参加者: 〔名前〕
議題: 〔1行〕
【文字起こし】
〔議事録AIの出力を貼る〕
【出力形式】
1. 決定事項(箇条書き)
2. 議論された論点(箇条書き)
3. 次回までのアクション(担当者・期限つき)
4. 持ち越し論点(次回の議題候補)
議事録は「決定事項」と「次回アクション」が抜けると価値がない。AIに任せれば抜け漏れが減る。
プロンプトを社内で運用する3つのルール
テンプレートを作っても、放置すると誰も使わなくなる。社内で機能させるために、僕が顧問先に勧めているルールが3つある。
ルール1:プロンプトはNotionかGoogle Driveに集約する
業務ごとにファイルを分け、タイトルに「【業務名】プロンプト」と付ける。検索すれば誰でもすぐに引き出せる状態を作る。社員のローカルに眠らせない。
ルール2:使った人が改善する文化を作る
「プロンプトを使ってみて、もっとこうした方がいいと思った点はメモする」を運用ルールにする。月1回、メモをまとめて全員で改善する。これをやると、3ヶ月後に社内のプロンプト品質が大きく変わる。
ルール3:固有名詞・社内用語は最初に登録しておく
中小企業のプロンプトで一番もったいないのが、「自社のサービス名」「主要顧客の業種」「過去の成功パターン」を毎回ゼロから書いていること。これらをまとめた「自社情報シート」を作っておき、必要なテンプレートに貼り込めば、出力の精度が一段上がる。
中小企業がやりがちな3つの失敗
実際に相談を受けてきて、よく見る失敗を書いておく。
失敗1:1度の指示で完璧を求める
AIは1往復で完璧な答えを出すツールではない。「ここを修正して」「もう少し短く」と対話しながら磨き上げる前提で使うべきだ。1往復で諦めると、ほぼ確実に「使えない」という感想で終わる。
失敗2:機密情報をそのまま貼る
顧客の個人情報・取引額・契約内容をAIに貼るときは、社内ルールを先に作る。法人向けプラン(ChatGPT TeamやClaude Team)を契約すれば学習に使われない設定にできるが、個人プランで業務利用する場合は注意が必要だ。詳しくはAIを業務で使う前に知っておくべきセキュリティの話に書いた。
失敗3:プロンプトだけ整えて運用しない
プロンプトは武器だが、使わなければ意味がない。「プロンプトを作ったから明日から効率化される」のではなく、「毎日この業務でこのプロンプトを開く」というオペレーションに組み込まないと定着しない。
まとめ
中小企業がプロンプトで失敗するのは「テンプレートを集めることが目的化する」からだ。本来やるべきは、自社の業務を1つだけ選び、そこに合うプロンプトを1つ作り、毎日使うことだ。
10個並べたが、最初は1つでいい。「経理の月次締め」「議事録要約」「営業メール」など、自社で一番時間を取られている作業に合うものを選び、自社情報を埋めて、明日から使う。それを1ヶ月続けてから、2つ目に進む。
僕自身、最初の1ヶ月は議事録要約のプロンプト1つだけを使い続けた。それが定着してから、メール下書き、コード生成、提案書の構成案と、徐々に増やしていった。順番を守れば、誰でも使いこなせる。